右筆 — 戦国の代筆人
関ヶ原500通の書状を支えた、信頼の筆
天下分け目の日本最大の戦い — 関ヶ原の合戦は、たった6時間で勝敗が決まったという事実をご存じの方も多いかと思います。しかしその裏側では、戦いに至るまでに日本列島を行き交った書状が500通を超えるという調査結果があります。
テレビで見かける書状の文章は殆どが崩されていて、私にはなかなか解読できません。「城」「落城」「出陣」「候」などの文字がかろうじて分かる程度で、勉強不足でお恥ずかしい限りです。しかし、それよりも筆さばきの上手さに惚れ惚れしてしまいます。
上手すぎる書状の秘密
将軍や大名は子供の頃から厳しく読み書きを教育されており、達筆なのは当然です。しかし、それにしてもどの書状も上手すぎるとは思いませんか?
調べてみると、実は「右筆(ゆうひつ)」という書状の専門秘書官たちがいたのです。殿の話した内容を巻紙に書き写すという役人が常に右側に控え、殿以外の人間とは接触しないという徹底した情報漏洩対策の義務を背負っていました。
筆の技術、そして信頼
識字率の低い時代に、漢字の知識と文章力と筆の技術を兼ね備えていること — それだけでも相当な才能です。しかし、戦国時代という生きるか死ぬかの時代において、国家の存亡がかかった書状を書くという仕事に最も求められたのは、「絶対に裏切らない」という信頼性ではないかという気がします。
現代の「代筆」として
右筆の役人にとって、AIが瞬間的に文章を作成してくれる時代が来ることは、全く想像もしない異次元の世界の話でしょう。しかし、どれだけ技術が進んでも、人の手から生まれる文字には、デジタルでは伝えきれない温もりがあります。
筆耕という仕事は、この「右筆」の精神を現代に受け継ぐものだと思います。お客様の大切な場面 — 結婚式の招待状、式典の賞状、企業の表彰状 — そこに込められた想いを、一文字一文字に託して書く。技術はもちろんですが、お預かりした内容を責任を持ってお届けするという信頼こそが、500年前も今も変わらない代筆の本質なのではないでしょうか。
AIに代わられないような代筆業を、時代に沿って運営していかないとな——と考えつつ、毎日がただ過ぎていく今日この頃です。