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コラム・読み物

代表・出口胡蝶による、
書道や筆耕にまつわるコラムをお届けします。

日本の美意識 — 茶室と書の余白

岡倉天心の「茶の本」に見る、引き算の美学

伝統文化 哲学 書道

出口胡蝶

「日本の美意識って何ですか?」と問われたとき、明確な答えを持ち合わせていないことに歯がゆさを感じたことがあります。その答えを探す旅の中で、岡倉天心の「茶の本」に出会いました。

和魂洋才 — 気づきのきっかけ

きっかけは「和魂洋才」という言葉でした。西洋の技術や文化も学び取り入れつつ、和の古来の精神を最も大事にするという意味です。日本の美意識を象徴する漢字を6つ選び、書アートカレンダーとして制作する中で、この問いと向き合うことになりました。

京都国立博物館で「日中書の名品展」を拝観した際、美術館の書籍コーナーで出会ったのが岡倉天心の「茶の本」。その見出し——「美のカリスマ岡倉天心が世界にアピールした、日本人の本当の美意識」。手掛かりはこの本が教えてくれると確信しました。

京都国立博物館 外観
京都国立博物館 — 出口胡蝶 撮影

茶室は引き算である

天心は、日本と西洋の美意識を鮮やかに対比させています。

茶室には必要最小限の物しか持ち込まない。美術品の重複を避け、植物の絵を掛けたら活け花は飾らない。極めて空虚で質素な空間でなければならない。

一方、西洋の屋内はおびただしい彫刻、絵画、骨董品の陳列で埋め尽くされ、混沌としている。不必要に物が重複し、富を誇示する。自画像を飾り自己アピールを好むが、日本では自己主張を嫌い、花鳥風月を画題とする。

余白に宿る想像力

天心はこう述べています。茶室における真の美は、「不完全」を人の心の中で完成させることであると。静まりかえった中に聞こえる茶釜の湯の音を、滝の響きか、岩に砕ける波の音か、竹林を払う風の音か——そう想像することに美が宿るのだと。

書に置き換えても全く同じです。何も書かない余白で想像力を働かせる。茶室の4畳半を白い紙に例え、最小限の黒い線で余白(間)を大切に、一本一本違う角度と長さで線を引く。そして技術を隠し、最高の技術を用いる

書アート作品 「憩」
書アート作品「憩」 — 出口胡蝶 作

狭い国土の中に自然が凝縮されている環境で暮らす日本人にとって、これは必然的な美意識なのかもしれません。同時に、西洋の豪華絢爛な世界への憧れも常に持っている。その真逆さゆえの魅力。筆耕の仕事でも、余白を大切に、品格のある文字を一文字一文字丁寧に書くことが——日本の美意識を継承することに繋がっていると、今は思えるようになりました。

技術(意匠)を隠し、最高の技術を用いる